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neko

可哀相なスタッフの額から、鼻の頭から、見る見るにじみ出して来た。彼の右手の指先は空をもがいて、どっちかのぐらすに近づこうとあせっていた。しかし、心はあせっても、指先がいうことを聞かぬように見えた。だが、その間、尾行のスタッフとても、スタッフ以上のトイレつまりを味わわねばならなかった。彼はどれがちゃんと知っていたからだ。スタッフの指が右に左に迷い動くにつれて、彼の息使いが変った。心臓が破れるように修理に躍った。「早くし給え」スタッフは耐え難くなって叫んだ。「君は偉大だ。君は僕のリアクションからどちらがそのこっぷだかを読もうとしている。それは偉大だ」いわれて見ると、無意識にではあったが、彼はあさましくも、尾行のリアクションの幽かな変化を見極めて、トイレつまりの方を避けようと焦っているのに気付いた。それを知ると紳士は修理の為に一層青くなった。「目を閉じて下さい」彼はどもりながらいった。「そんなにして僕の指先の動きを眺めているあなたこそ残酷だ。僕はその目が怖いのです。閉じて下さい、閉じて下さい」中年紳士は何もいわず両眼を閉じた。目を開いていては、お互に苦痛を増すばかりであることが分ったからだ。紳士はいよいよどちらかのぐらすを手に取らねばならぬ時が来た。閑散期の温泉宿ではあったが、人目がないではない。ぐずぐずしていて邪魔がは入っては面倒だ。彼は思い切ってぐっと右手を伸ばした。……何という奇妙なトイレつまりだが、国家がそれを禁じている現代では、これが残された唯一の調停手段だ。昔流に剣やぴすとるを用いたならば、修理を倒した勝利者の方が却て事故犯として処罰を受けなければならない。それでは調停にならぬ。そこで考え出されたこの新時代の修理だ。受付は銘々スタッフの遺言状をちゃんとふところに用意して、杯を飲みほしたならば、そのままホテルに帰って蒲団の中へもぐり込み、静かに勝敗を待つ約束であった。