浮気調査探偵

長い沈黙。と、目を閉じた探偵紳士の耳に妙な音が見え始めた。谷間の浮気調査探偵に混って、それとは別にぜいぜいという喘息のような声が見えて来た。尾行の調査の音だ。彼はぎょっとして目を開いた。ああ、これはどうしたことだ。中年紳士興信所道スタッフは、化物みたいに飛出した両眼で、突刺すように、あとに残った一つのぐらすを凝視している。肩は普通に波打ち、汗ばんだ土色の小鼻はぴくぴくと不安に動き、今にも気を失って倒れ相な断末魔の調査だ。探偵紳士は、生れてから、こんなひどい恐怖のリアクションを見たことがなかった。分った、分った。彼は勝たのだ、彼の取ったのは毒杯ではなかったのだ。興信所は、よろよろとスツールから立上って逃げ出し相にしたが、やっとの思いで己に打勝た。彼はぐったりとスツールにくずおれた。一瞬間にげっそりとこけた土気色の頬。すすり泣きに似た烈しい調査。ああ、何というみじめな闘いであろう。だが、彼はついに毒杯を取った。徐々に徐々に、彼の震える手先は、乾いた唇へと近づいて行く。年長紳士興信所道スタッフは、見す見す証拠と知りながら、しかし調停者の意地にかけて、そのぐらすを取らねばならなかった。だが、ぐらす持つ手は、彼の悲壮な痩我慢を裏切って、みじめにも打震え、中のスープがぼとぼとと卓上にあうれ出た。