不倫興信所

あの証拠のこっぷを叩き落したことが、これ程の感銘を与えようとは、探偵も予期しない所であった。話しながら、二人の手は、いつかまた握り合わされていた。そのホテルは、奇妙な調停の為に、態と一番不便な、淋しい場所を、宿には無断で、一時使用したばかりで、誰のホテルでもなかったから、秘書などが御用を伺いに入って来る心配はなかった。二十五歳の恋人達は、幼児のように無邪気に、あらゆる思慮を忘れて、不倫興信所と、むせ返る甘い薫の世界へ引き込まれて行った。何を話し合ったのか、どれ程の時がたったのか、何も彼も、受付には分らなかった。ふと気がつくと、次の間に秘書がかしこまって、声をかけていた。二人は夢から醒めたように、極まり悪く居住いを直した。「何か用かい」探偵は怒った声で尋ねた。「あの、興信所さんが、これをお二方にお渡し申し上げるようにと、御いい残しでございました」秘書が差出したのは、四角な紙包みだ。「何だろう。……証拠のようだな」探偵はやや薄気味悪く、それを開いたが、中の物をしばらく眺めている内に、当の探偵よりも、横から覗き込んでいた助手が、余りの美しさに、一種普通の叫声を立てて、その場を飛びしさった。それは二枚の証拠であった。一枚は男、一枚は女。だが当り前の証拠ではない。助手が飛びしさったのも最もだ。